panachoの日記

辺境アジアからバロックオペラまで

伝説の仙台のバロック喫茶・無伴奏、映画となる


  小池真理子の小説『無伴奏』は、実際にあった仙台の伝説的バロック茶店の名をとった青春恋愛劇である。小池自身の高校時代の話をもとにしているようだが、我輩は読んだ。でももうすっかり内容は忘れた。小池は50年代はじめくらいの生まれだと思うから、団塊の世代ではないが、学生紛争にかかわることがかっこいいと思っていた時代の人である。この本も政治とか恋愛とか運動とか(ただしゴルフとかバレーとかではない)がどしどし出てくる。ロックと野球以上に我輩の苦手なものばかりである。
  これが成海リコ主演で映画化され、いままだ上演中である。
  我輩はほぼアルバイト経験はない。院生時代もほぼしなかった。しかしながら、一度だけ、院生時代、わずかな期間、コーヒーをつくってだしていた。一人店長、一人アルバイトの店で土曜日だけであった。土曜はだれも忙しく、他にやる人がいなかったから、我輩にまわってきたはずである。その喫茶店無伴奏だった。
  それだけでなく、この店でリヒター晩年のカンタータ演奏のレコードだのアーノンクールらの新しいカンタータ演奏だのを聴いて堪能というより、「学習」していたのである。まずいコーヒーにバナナケーキが名物で、ケーキは100円。二回に一回くらいしかバナナケーキは注文できない貧しい学生であったが、アルバイトの前から何年もずっとかよっていたのである。
  土曜日は朝から行って、山のようにあるレコードで好きな曲を聴いて「学習」していた。当時レコードは高いと3000円くらいしたから、バッハのマイナーなレコードは金持ちのどら息子たちの趣味だったのである。そして事実、この喫茶店のオーナーもそのビル一棟を所有する父親の子ども、30代後半の男だった。無伴奏は何年も前になくなり、一種の伝説と化している。
  予告編をみると、よく当時の内部が再現されており、おまけに頭をかしげるために生じた染みまで復活している。
  でも我輩はまだこの映画を見に行っていない。そのころの忘れているあまり思い出したくない記憶がよみがえる可能性がある。どうしようか迷っているのである。
  いつかはみるかと思うが、それにしても自分が唯一やったアルバイトの場所であり、将来どうなるかもわからず、大学には行かないが、むやみにバッハを「学習」していた時代のことである。そこには愛憎半ばする思いがある。
  1950年前後に録音されたリステンパルト(指揮)のバッハ・カンタータ集を聴きながら。古い音質でも聴いているうちに没入するというところに耳の不思議があるね。

  染みがみえる。はっきりと。普通女子はバナナケーキを頼むと思うが、この場面にはない。それが再現されていればなあ。
https://www.youtube.com/watch?v=RvLnsWCTcNE
  予告編をみるかぎり駄作だと思う。こういう映画をだれが見たいのか、まったくわからない。我輩より上の世代は、軒並みアホじゃないかと時々思う。