panachoの日記

辺境アジアからバロックオペラまで

ファツィオーリのバッハの問題点


  抗生物質は停止されたが、入浴は許可された。つまりポキは一夏、湯船につかることを禁止されていたのである。勿論シャワーは可能ではあった。しかし傷口が開いているので、用心深く浴びる必要があった。秋にこだわるのもそのせいで、シャワーだけを慎重にあてていると、もう浴室にいる時点で風邪をひきそうになるからである。秋になった。
  ヒューイットの新しいバッハ(といってももうずいぶん前に発売されたもの。彼女の別のCDを買って評価がいま一つだと思って無視していたのである)はイタリアのファツィオーリというピアノを使って録音されている。新鋭のピアノ会社で、いまやずいぶん愛好家が専門家に増えた。音がきれいというのが一番の売りである。あとはキーが軽いというのもあるのかもしれない。スタインウェイはかなり重い。
  問題は美音がバッハにあっているかである。美音は勿論文句なしに結構なことだが、倍音がうるさいと、バッハの対位法の線の動きを阻害してしまう。むしろバッハについては倍音を抑えるグールドみたいなやり方がやっぱり望ましい。でないと、なんというのか、朦朧体的な態となって、把握しづらい。
  朦朧体といえばリヒテルである。彼の平均律とくらべてみた。第2巻の最初のあたり。結論はリヒテルの方がずっとクリアで、あらゆる点で(テンポやアーティキュレーションや呼吸のあやとか)勝っていると思える。むしろ彼女のほうは凡庸だ。なぜ高い評価を得ているのか。ポキが前に買ったCDは無機的だったし、相性が悪いのかもしれない。