panachoの日記

辺境アジアからバロックオペラまで

ストア派になるバンコク・ライフ

  朝からPCでひと騒動だったが、帰国まで後一週間、総括に入りたい。といって書き忘れたことを書くだけだが、食堂の体系である。また食い物の話だが、思いがけずタイに関する失望の大きな原因になるから述べておきたい。
  バンコクの外食では手頃な値段の食堂があまりないように思える。屋台かレストラン(要するに建物のなかにあるというだけで価格はあがる)かという選択が一番困ったことだった。屋台は在住者はあまり行かないようだ。屋台に限らず、タイでの食事そのものが問題視されているかのようで、エビひとつとっても養殖場がどうだ(バンコクそばのタイ湾は汚い。周りは工業団地だからね)、市場がこうだ(これは我輩も同感。衛生的な状態ではない)、調理がああだ(これも問題だなあ)となって、高いホテルや安心できる日本料理店で食べてるような印象だ。タイの魚介類を臭いと思っているのである。あくまで印象だが。これではソンブーンなんて云ってる我輩も考え直さないといけないわけだ。屋台に行かないもう一つの理由は前にも触れた体面である。長くいる人は屋台で食べているところを見られたくないようなのである。
  屋台とレストランの価格の開きはかなり大きいが、それはもともと貧しい東南アジアでは屋台以外に外食の習慣はなかったためと思われる。そこで屋台でないレストランはぐっと高くなるのである。ビルマに行ってレストラン探しに一苦労という話を昔読んだことがある。食事は無料で差し上げるもので、金をとって販売するものではないという、ビルマのこれは麗しいかつての風習からきていたと思う。
  社会的流動性の高かった日本では、単身者用の食堂が、最近は大衆食堂が減りつつあるとはいえ、昔からあって、衛生面でそれが問題視されたなんてことはないが(むしろファミレスだよね、危ないのは)、そうでないタイでは、日本人にとっては、いつも屋台以外としての割高なレストランが選択される(日本の寿司や天ぷらなどは単身者用からきている。日本の代表的料理はもともとファストフードだ)。ここが旅行者と短期とはいえ在住者のタイ評価の分かれるところで、普通のレストランはどれも今一だ。安く旨いタイというイメージはすぐ壊れ、なんだこれとなる。ま、我輩の場合だが。高く中途半端なタイ。あるいは旨いが高いタイとなる。高いタイは、言葉の矛盾でね?。誰も高いタイに来たくはないんだよ。よっぽどのタイ好き以外は。高い旨いなら日本でいいのでは?。この点はしかし在住者は分かっていない。
  日本料理も西洋料理も高くまずいという東京的な現象があるわけで、とくに日本料理は悲しいほど形だけだ。蕎麦もうどんもゴムをかんでるようなことが多い。カツは許せるが、カツ定食につく麺がこれなのである。蕎麦は日本でも持ち上げられ過ぎで、雑駁な食いものだからうまくてもまずくてもあまり構わないという立場を堅持してきた我輩からして、これはひどいと思う場合がある。タイ調理人は日本麺に関心ないという風情だ。これじゃね。よく食うなあと思って作っているんだね、きっと。日本における野菜サラダと同じだ。形だけ西洋風だが、日本のサラダが旨かったためしはない。ま、あることはあるが、例外だ。あれも形だけだからだ。これと同じだと思う。サラダ食うなら漬物食べるべきだというのは国粋主義なのか。
  タイに来る前はその複雑な味にあこがれていたが、どれも同じ複雑さで、3カ月目には飽きた。つまりどの料理も同じ複雑な味なのだ。単調だとすらいえる。しかも努力のない人々なので、同じメニューが国中溢れている。日本のラーメンのあの競争=狂騒も変だが、この停滞ぶりはもっと変だ。スープもどの店も同じ味、同じ材料。たまには大葉、三つ葉、小口ネギでも使ってみたらと思うが、シャンツァイだけが刻んで入れてある。スープはいい味だが、飽きる。ある種の甘さが隠れているからではないかと思う。でもタイ人はこればかりを啜って死んで行くのだ。アホなんだろうか。反語にする意味がないほど自明かも。それで日本料理を単調だといわれるいわれはない。いわれたことがあるのだが、タイ人に。ふふふ、不届きもの。・・・ちなみに、不届きものとは、お届けものが届かなかったことではない。クロネコヤマトに責任はない。
  日本はそれなりにものが旨い国なので(ただし東京以外)、料理にあまりにこだわると知能か階級が低いように思われるのじゃないかと思う。思われても今の日本じゃ恥ずかしくはない。やってくださいね。しかし東京の連中が旨いものにこだわるのはバンコクと同じ理由で、まずいからである。そしてまずいことを知らないからである。彼らが知能の低い連中であるということはない。可能性はあると思うが。ほほほ。地方の新鮮なものを食べてきた人間には、そうした狂騒は笑劇であるが、バンコクで自分もまた、笑劇を演じるとは思わなかった。でも自覚があるためか、早々にバンコクでは食事に関心を失った。夜も食べない。たまにカツ煮込みを口にして、麺に愕然とするだけのストア派的生活なのである。だから、旨いまずいというのを聞くと、ほんとに笑いがこみあげてくる。バンコクで旨いまずいと云ってるくらいなら、さっさと日本に帰ればいいのだ。不可能性に挑戦してどうするの?
  あ、ストア派が分からないか。説明する時間はない。大学時代に少なくともストア派岩波文庫くらい一冊読んでおけば、よかったのにね。日本のサラダに騙されないですんだろう。なわけないか。
  マレーシアのイポーは駅舎が有名。2階がホテルになっている。そこのイギリス風の喫茶店で旅の日記見直す。2箇所間違えてるなあ。となりでヴぇールをかぶって食事していた3人連れの女性たちは笑顔も感じもよかった。食べ物まで美味しそうだった。夕暮れのモスクも憂い含みでいい。