panachoの日記

辺境アジアからバロックオペラまで

ゾミアを読み出す−−−東南アジアのアナキズム!


  どうもブログを書いても書かなくてもどうでもよくなって(何度もいうが旅ブログなのだし)、そうしているうちに忘れてしまいそうになるが、こういう本が手に入ると少し宣伝しておきたくなる。
  『ゾミア』は本である。そしてゾミアとは東はベトナム、西はインド東北部、北は中国4省からなる高度300メートル以上、約250万平方キロの山岳地帯である。そこに部族とか少数民族といった人々が山のように住んでいる。わが愛する民族小物はそうした人々の産物である。
  さてそうした「原始」的生活をおくる人々には明確な国家がなく、ために遅れた人々だと考えられてきた。しかし、そうではなく、そうした人々はもともとは平地に暮らしていたが、「強権的な国家と隷属的労働組織」から押し出され、逃避してきた人々であって、部族的風習というのも、往々にして、事後的な環境的適応であり、いってみれば自己野生化の結果なのだ。こういうことを主張するのがこの本である。
  国家をつくらないために生じたいろいろなことを我々文明人は、国家に対する同時代的な「無国家空間」とみることなく、ただその図柄を縦に倒して時間の前後関係に置き換えている。だから原始的部族的生活から国家をもつ高度文明世界へという進化論的発想になるわけだ。しかし、実態はまさに逆であって、高度な文明と称するものがもつ野蛮にへきへきした人間たちが是が非でも国家をつくらないという決意を具体化したものが、我々の知る未開の生活なのである。
  舞台は東南アジア。でも世界中で同じようなことが観察されるとする。著者はイエール大学の人類学者・政治学者ジェームズ・C・スコット。モラル・エコノミー論で有名な人物である。
  そして基本的思想は、私愛好第一位群の本、ピエール・クラストルの『国家に抗する社会』を受け継いだアナキズムである。そうです、東南アジアのアナキズム史観なのである。
  6400円の二段組の大著。みすず書房